儚い羊たちの祝宴

誰もが幼いころに怖がったであろう幽霊とかお化け。そんなものよりも結局一番怖いのは人間。そんな作品。

というわけで今回は米澤穂信先生の短編集、使用人やら令嬢やらが語り手になっているいわゆるお金持ち達を取り巻く常識とはかけ離れた世界の歪みを描いた作品『儚い羊たちの祝宴』について感想を書いていこうかなーって思ってますよー。

とりあえず一番最初に全体の感想を。人間って怖い(断言)

ただ、怖いんだけど美しい。本当に綺麗。鮮やかな伏線回収に、予想外の結末。ラストの一言に絶大な効果をもたらすために考え込まれたプロット、構成。見事、の一言です。

一応ひとつひとつにつながりが全くないわけではなく、あるキーワードが全作品で出てきます。それが「バベルの会」です。一応主にミステリを読む同好会みたいなもの。まあ、それがどういう集まりであるかはラストの「儚い羊たちの晩餐」で明らかになるので詳しくは省きますけどね。

というわけで例によって一つ一つみてきますよー。

○身内に不幸がありまして

上紅丹地方に大きな力を持つ家である丹山家。その令嬢・吹子に幼いころより仕える使用人・村里夕日の手記。丹山家では吹子の兄であり勘当された宗太が死んだことにされてから毎年夏に公にはされない殺人事件が起こる。犯人は宗太と信じる家の者。しかし夕日は犯人に心当たりがあり・・・こんな感じかなあ。

こう書くとフーダニットのように思えますが、犯人に関しては多分予測できます。それと気付けるようにきっちり色んな伏線を置いてくれていますし。この手記自体も相当なヒントですし。

だからメインはだれ?ではなく何故?だと思います。そしてこの理由が読者の恐怖心を煽るんですよね。ラストの独白。特に最後の一文が。その一文で決定打を与えるために上手く作られた作品ですね。

○北の館の罪人

これまでたった二人で生きてきた母が死に際に遺した言葉。「六綱の家に行きなさい」その言葉を頼りに六綱家にいき自分が六綱の旦那様の娘で会ったことを知った内名あまり。他に行くところもないためそこで給仕として働くことになった彼女は訳ありとみえる別館に住む男の世話をすることになる。これは彼女と2枚の絵を巡るお話。

内容的には本作で私が一番好きなのがこの話ですね。ラストの台詞の衝撃といったらもう。別館の男の不思議な注文やあまりに対する接し方と現在の当主とを対比させ、あたかも当主側に問題があるように感じさせつつ実は・・・。

これだけだったらその辺の短編となんら変わりませんけどここで終わらないのが米澤先生の凄いところですね。ラストまでめまぐるしく話が動きます。ただ、気付けない。動いていることに気付けない構造になっているのもいいですね。鮮やかな手腕と見事な演出だと思います。

○山荘秘聞

別荘の管理を任されて1年。美しい別荘を管理者としてしっかり守ってきた女性。しかしながらおかしなことにこれまで一度も来客がない。どうやら雇い主の奥様に不幸があったらしく、奥様のために建てられたこの別荘から足が離れてしまっているのだとか。そんな悶々とした日々が突然好転する。山から滑落した青年を助け、彼の世話をすることになるのだが・・・こんな感じかな。

何言ってんの?といった感じにこれまでの2作とは違いあからさまにおかしなことをしている語り手。読者は違和感しか感じられない状況で物語は淡々と進んでいきます。

この話の探偵役は相当凄いですね。たったあれだけの情報で真実に辿りついてるんだから。で、そういうことやったんかあああああ超怖いやんけえええええええってなるんですけどそれもまた米澤先生の掌の上で踊らされているだけだったり。

ミスリードのさせ方が巧みな一作ですね。物語自体は淡々と進みますが読者の感情、推察は二転三転するように上手く誘導されます。参りましたといった感じ。

○玉野五十鈴の誉れ

名門小栗家の令嬢・純香。彼女の祖母が絶対的な権力を持つ小栗家において彼女は祖母に絶対従うことで生きてきた。学校では友達も作れず、祖母の考え通りに祖母の理想通りの振る舞いをしなければならない。そんな彼女を支えたのが同い年の使用人・玉野五十鈴だった。彼女に勇気を貰いついに大学進学のため家を出ることに成功した純香。だがそれは彼女の不幸の始まりに過ぎなかった。・・・こんな感じかな?

本作で最もよく出来ているのがこれだと思います。基本的に最後の一文で衝撃を与えることに特化した短編集なんですがこれが一番鮮やかな手際でしたね。最初から最後まで計算された構造。上手過ぎる伏線の置き方。

実際展開としては読めるんですよ。多分こうなるんやろうなあと。ただその方法がねぇ・・・秀逸。

しかもやってることはかなりえぐいのに読後に爽快感があるんですよね。人物設定の上手さですね。祖母を憎たらしく描くことで純香と五十鈴の関係を美しく表現しています。

○儚い羊たちの晩餐

「バベルの会はこうして消失した」この言葉から始まる日記。荒れ果てたサンルームで偶然それを見つけた女学生。書かれていたのは聖域から追い出された者の告白。幻想と現実とを混乱してしまう儚い者達の最期。『いつか訪れる儚い者へ』今はここに談笑はない。しかし一篇の物語が後継者を生んだ。

ラストはやっぱりきました「バベルの会」のお話です。明らかに必要なさそうな物語にも無理くり入れてたもんね、このワード。ただ、ラストを飾る物語は凄まじく後味が悪いです。あえて、でしょうね。内容が内容だけに相当心にきます。

キーワードはアミルスタン羊です。ようやく羊に触れてきました。このワード、というか意味を知っている人だと割と早い段階で真相に気付けるんじゃないかな?私は知らなかったけど途中でググっちゃいました。うん、おすすめはできないです。知らずに読んだ方が面白いですよ、多分。

まあ、知らない人でも「あれ?もしかして?」と思わせるように誘導していってるんですけどね。ラストに向けての迫りくる恐怖に対するワクワクドキドキがやばいですもん。

さて、という5つの短編で本作は成り立っています。ちなみに私的には五十鈴=北の館>山荘>儚い羊>身内に不幸がって感じの順位付け。どれも面白いけどね。五十鈴が上手く出来過ぎです。北の館は単純に私の好みですね。

ではでは、今回はここで少し考察を入れたいと思います。テーマは「続きもののラストとしてみた時の『儚い羊たちの晩餐』について」です。実際ひとつの短編としても面白い出来なんですけど続きものとしてみてもなかなか趣深い気がするので。

というわけでここからは・・・

ネタバレ注意でお願いします。















極力する気はないけどね。

『儚い羊たちの晩餐』には書かれていない(と少なくとも私が思っている)謎が残っています。それは・・・

①この日記を読んでいた女学生=いつか訪れる儚い者とは一体だれ?

②何故日記は途中で終わっているのか?書き手・大寺鞠絵はどうなった?

ですね。なのでまずは①についてみていきますよー。

この女学生は誰なのか?候補は4人います。

1.「身内に不幸がありまして」の令嬢・吹子
2.「玉野五十鈴の誉れ」の令嬢・純香
3.「玉野五十鈴の誉れ」の使用人・五十鈴
4. 出てきていない全く新しい人物

全部ありそう。4が本命。対抗が2か3。大穴が1といったところでしょうかね?1,2,3は「バベルの会」の存在は知っていたはずですが何が起きたのかは知らなかったはず。

時期的に考えると2,3は復学後もしくは新たに入学後に2年前の出来事が書かれた日記を読んだことになりますね。

4なら昨年夏の出来事の書かれた日記を読んだとするのが自然ですかね。

1の場合は何故そのタイミングで日記を手に取ったのかが不明なので大穴って感じですね。

ただ答えは闇の中です。深く考えずに4な気もしなくはないけど。

次に②についてみてみますよー。

「わたしは」で彼女の日記は終わっています。そして最後のページに『いつか訪れる儚い者へ』と記されています。この最後のページの文は大寺鞠絵が書いたものだと明記されています。では、本文と最後のページ、書かれたのはどっちが先だったのでしょうか?

私が思うに最後のページは日記部分より早く書かれたのではないかと。この日記が読み手を意識して書かれていることは明記されていますし、最後のページが最初に書かれていたと考えても特に問題があるとは思えません。

鞠絵は日記部分を書いている途中で何らかが起こり、書けなくなったのではないかなと。

つまり、鞠絵も「儚い羊」だったのではないかと。これは厨娘の説明の時に感じたこと。なぜなら「量」が足りないから。パパは新たに追加で客を呼んでしまったから。

ただ、まだ分からないことがひとつ。誰がこの日記をサンルームに置いたのか?

思うに、上の解釈だとこの日記を手に入れることが出来るのはただひとりです。その人が置いたのだとしたらその理由はおそらく・・・。

ね?凄い後味悪いでしょ?でもこう考えると本作の表題が『儚い羊たちの祝宴』というタイトルな理由もなんとなく納得してしまうんですよね。作中で起きた「晩餐」じゃなくこれから起こるであろう「祝宴」を読者に予感させる、そんなタイトルなんじゃないかなーって。

読み込みが足りない気がするのでこれが正解だと言い張る気はないですけども。でも色々考えさせられる。読後も楽しめる良作ですねー。

さてはて、若干ホラーテイストも感じ取れる人間ドラマを集めた本作、是非手に取ってみてはいかがでしょうか?
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No title

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。

No title

最後の「わたしは」の意味を考えてここにたどり着きました。
大変面白い記事でした。
投稿から時間は経ってしまっていますがありがとうございました。
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Author:みちくさぼーや
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