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江神二郎の洞察

僕、有栖川有栖の大学生活がいかなるものになるかを決めたのは一冊の本だった。

「・・・名探偵が、悲劇を未然に防いだのね」

アリスが英都大学推理小説研究会(EMC)に入部してから、同級生の有馬麻里亜が入部するまでの1年間を描いた学生アリス初の短編集。学生アリスシリーズの二人の語り手が揃うまでを描いた作品の数々。それが予告していた通り今回扱う本作『江神二郎の洞察』でございます。

うん、一気読みしちゃいました。やっぱり火村もいいけど江神さんはまた別格といった感じでしたね。恰好良すぎる。

一応おさらいしときましょう。学生アリスシリーズは有栖川有栖先生のデビュー作(短編も長編も)のシリーズですね。英都大学推理研究会(EMC)の個性あふれる面々が偶然遭遇した難事件に挑んでいくというものです。

語り手は基本アリス、時々EMCの紅一点であるマリアといった感じ。この二人が同級生でひとつ上の学年にモチさんと信長さんというコンビがいて、長老的ポジションにいるのが本シリーズの探偵役・江神二郎となっています。

江神さんはある事情から(確か『双頭の悪魔』『女王国の城』で微妙に触れられているんですが)学生という身分を保つために留年を繰り返しているというお方。4人とは結構歳も離れているだけあり年長者としての落ち付きを持ちながらノリの良さを併せ持つというかっこいいお方ですね。その上博識、社交性抜群という。うん、典型的なミステリの探偵役だね。

でね、4つの長編で複雑な殺人に遭遇している彼らですがこんなことをいってます。実際に殺人事件の当事者になったのは『月光ゲーム』『孤島パズル』『双頭の悪魔』少なくともこの3つまではそれぞれの時しかない的なことを。言ってたはず、多分、自信なくなってきたけど。

つまり、この短編集ではEMCが事件の当事者になってはいけない縛りがあるんですよね。これが多分作家アリスと違って作品数があんまりない理由な気がしますけど。だから短編集なんて作れるん?と思ってたんですよぉ。

うん、さすがでした。下手すると長編より面白いかもしれない、これ。実際の殺人事件に遭遇しない分謎が身近なものになるんですけどそれがまた面白い。むしろこっちの方が合ってるんじゃないかと本気で思ってしまうくらい。

さてはて、この短編集には9つの作品が収録されています。で、例によって一つ一つみていくんですが、その前に時系列のおさらいでも。

アリス・マリア入学→本作「やけた線路の上の死体」まで→『月光ゲーム』→本作「蕩尽に関する一考察」まで→『孤島パズル』→『双頭の悪魔』→『女王国の城』ってなってます。一応今現在では。

『月光ゲーム』が1988年の設定なので本作も88年4月から89年4月までを描いてますね。

ちなみにあとがきによると短編集はもう一作、江神さんの卒業アルバム的な感じで出されるようなのでこの時系列は変動するかもしれませんけど。まあ、まだ1冊目が出たばかりなので次が何時になるかは分かりませんけどね。

あ、そうそう、本作を読むにあたってなんですけど一応シリーズの他の作品を読んでいなくても楽しめるかと思います。ただ、読んでるとにやにやできる部分が多々ありますので4作とも読んでから・・・というのを推奨しておきます。時系列的に間に入る『月光ゲーム』だけでなくそれぞれの作品に対応する部分があったりするからね。

ではではひとつずつ作品紹介していきましょう。ちなみに掲載順が時系列順なので。

●瑠璃荘事件

プロレスサークルに代々受け継がれていた講義ノートがなくなったっ!モチさんの下宿先である瑠璃荘で起こった盗難事件。現場の状況、関係者の証言はモチさんが犯人でしかあり得ないものだった。仲間の危機を救うためEMCの面々が立ちあがる。アリスが江神の探偵としての能力に初めて触れた物語。

『月光ゲーム』でも書かれていた江神さんとアリスの出会いから江神さんが初めて探偵としての能力をみせた小さな盗難事件を描いた本作。事件は小さいけど(こんなこと書くと某お台場の警察所の緑のコートを着た所轄に怒られそうだけど)しっかりとした本格ミステリでしたね。いわゆるアリバイ崩しものです。

ラストの推理の前提っていう話もなかなか。江神さんと彼についていく3人の関係性を見事に表している感じでした。

掲載作品中では比較的新しめに書かれた作品ですね。だからか4人のやり取りが自然、というか私が知ってる感じに仕上がってました。(とはいえ他の作品に何か変なところはあるのかと言われればそんなとこはないのだけれど)みてて楽しいよね、この4人の絡み。もちろんマリアを足してもいい感じになるんだけど。

●ハードロック・ラバーズ・オンリー

江神さんと雨の中歩いていたときのこと。偶然見かけたその子にアリスは声を掛ける。声も知らない。お互いの名前も知らない。だけど、数回会話したことがある。そんな関係の音楽喫茶の常連同士。彼女が喫茶に残した忘れ物を届けるために大声を出すも振り向かない彼女。そんな彼女をみて江神さんはある考えを抱いた。・・・こんな感じかな。

作中最も短い話ですね。短いですけど上手くまとまっている感じです。そんなに難解な文章でもなく、複雑なトリックを使われている訳でもない。でも、学生アリスっぽい。そんな作品ですね。

一応この答え合わせがこの短編集用に書き下ろされた「除夜を歩く」で出てきたりするんですけどこれまたいい感じですね。このハードロック・ラバーズ・オンリーの中でそこまでやっていたら作品の雰囲気にそぐわないでしょうしね。あっさりとした、でも惹き込まれる感じです。

●やけた線路の上の死体

EMC夏休み旅行第一弾でモチさんの故郷和歌山県南部町を訪れたEMCの一行。夏を満喫するはずが偶然起きた列車事故に興味を持った一行は事件を調査することに。見つかった死体は列車に轢かれる前に前に亡くなっていた。この不可解な状況を解決するための糸はとある列車の特徴にあった。・・・こんな感じかな?

結構無茶やりますねーって思いました(小並感)

そのトリックが本当に出来るかどうか勝手に実験しちゃったりしてます。結構危ない気が。ただこのトリックはなかなかのものですねー。よくある部類ではあるんですけど。気付ける人は気付けるんやないかな?

この作品が有栖川先生の実質的なデビュー作みたいです。多分推敲は入ってるでしょうがそうは思えない出来なんですけどね。

ただ、だからか顔見せが丁寧だったり。江神さんの観察力の鋭さを描写してたりします。かの有名な名探偵のような推理を披露してましたねー。顔見せのオチまでしっかりとしてます。

また『月光ゲーム』の直前だからかかなり伏線が張ってあります。この辺の時期にあたる作品は読んでるとにやにや出来ますのでこちらも是非読んでくださいね。

●桜川のオフィーリア

江神さんと共にEMCを創始した人物、石黒操が持ってきた親友が持っていた写真。彼の同級生が亡くなったときに撮られたものだが現場の状況は犯人以外が写真を撮ることが出来ないというものだった。彼女を殺したのはあいつなのか?その疑問を解決するためEMCの面々は捜査を開始する。・・・うん、こんな感じ。

『月光ゲーム』の直後の事件だけあり、EMCの皆は相当落ち込んでるのが観てとれます。ただ、あの死線を潜り抜けたからか4人の観察力、推理力は常人のそれとは明らかに違うレベルになっていたようで。

名探偵は屍肉喰らいではなく、時に前に進むものを助けることが出来る。起きてしまった事件の犯人を見つけ出すだけがその仕事ではないのだ。『月光ゲーム』以降名探偵の意義について悩んでいたアリスが若干立ち直る話。悲劇の幕を閉じる、悲しみの上に成り立つだけが名探偵ではないと気付くことになる物語。

論理で解決できる問題ですがアリス達が言うように簡単ではないような気もしますね。私はどちらかというと石黒さん側の人間だったみたいです。

さて、実はこの話『女王国の城』の伏線が大量にあります。人類協会という宗教団体も出てきますし、その女王にも聖地にも触れてますし。何より石黒さんも出てくるしね。未読の方はこちらもどうぞ。

●四分間では短すぎる

未だに矢吹山の事件(『月光ゲーム』)から立ち直れないでいるアリス。そんなアリスを元気づけるため江神さんの下宿で無為に過ごすための会が開かれることに。話題提供を求められたアリスはその日偶然聞いていた電話していた男の台詞「四分間しかないので急いで。靴も忘れずに。・・・いや・・・Aから先です」について先輩に尋ねる。この台詞に隠された意図とは?秋の夜に高レベルの知能戦が始まる。こんな感じですかね。

なぜアリスが『月光ゲーム』をここまで引き摺っているかは読んでくださいとしかいえないですね。殺人に巻き込まれたショックだけが原因ではないんですよぉ。

もちろんですが、たまたまアリスが聞いた台詞に関する考察なので着地点はなかったはずなのです。ただそこは小説、そしてEMCの面々が行うゲームです。あっと驚く結末が待っていたり。

というか、凄過ぎでしょこの人ら。

本作掲載作品で私が一番好きなのがこれだったり。人も死なない。実際に事件があったかも分からない。言っちゃえば机上の空論。でも、そこにあるのはしっかりとしたミステリ。そんな感じ。

●開かずの間の怪

信長さんの下宿の大家さんから幽霊がでる廃病院の話を聞いた一行は実際にそこで一夜を過ごしてみることに。体調不良に見舞われた信長さんがいったん帰宅する中3人に怪奇が迫る。開かずの間。開かないはずの密室の謎に江神さんが挑むことに。こんな感じですかね。

ラストが怖すぎるよぉ。というか江神さんが動揺するって相当のことやで。

使われているトリック自体は難しくはないです。これは私も分かりました。本当だよ?(笑)一応部類としてはハウダニットに当たる作品なのでヒントが出揃うのは大分後の方なんだけどね。なんとなくそういうことではないかと途中で気付いたり。

夜の病院ということでなかなかのホラーテイストに仕上がってる作品ですね。まさにホラー短編の基本のようなオチです。

●二十世紀的誘拐

モチさんと信長さんのゼミの教授が持っていたとある絵が「誘拐」された。犯人が提示してきた身代金は・・・わずか1000円。犯人はあの人。これは確定。ただ、どうやって絵を持ち出したのか?これが分からない。ゼミ教授はEMCに身代金の受け渡しと真相解明を求めた。・・・こんな感じ。

これも比較的には難しくないトリックだと思います。けど、ラストの犯人と江神さんのやり取りはいい味出してますね。名探偵はすぐ具体的な答えを言わないのがいいですよね。あえて分かりづらい比喩を使って物事を解決していく。言葉巧みに。

メイントリックが単純な分随所に色々な仕掛けがあったり、謎が用意されてたりします。探しながら読むと面白いかもしれないですね。

犯人に悪意があったというよりも悪戯に近い事件だけに犯人にも親しみを持てるのもこの作品のいいところ。

それにしてもEMCに入ってたら話題に事欠かなくて楽しそうですね。周りで事件が起きたり、何かしらの謎が提供されたり。もちろん、私があの中に入って会話する自信はないですけどね。知的集団過ぎますからね。

ちなみにここでマリアの影が・・・?

●除夜を歩く

大学に入った年が終わろうとしている。大みそか江神さんと共に過ごすことになったアリス。モチさんが過去に残した読者への挑戦に挑みつつ1年を振り返る二人。アリスにとって色々なことが起きすぎた1年だったが江神さんとの会話を通してひとつひとつに想いを馳せていく。

ちなみに・・・

『仰天荘殺人事件』 望月周平
  
ある雪の夜。作家であり名探偵でもある満月周平は車の故障から偶然見かけた仰天荘に泊めてもらうことに。談笑を楽しみつつ床についた満月だったが朝、起きて誘われるがまま散歩にいくとまっさらな雪の上で主が亡くなっていた。雪道には足跡などない。犯人はどうやってここまできて、どのようにしてその場を脱したのか。不可解な謎に満月が挑む。


満月周平ってモチさん・・・。ちなみに出てくる警部さんの名前は江田警部です。うーん、安直。まあ、これは江神さんと信長さんに挑戦するために作られた作品なので突っ込むのは野暮ですけどね。

おんぼろベンツとか作家アリスに繋がる描写とかあったりするのでそれでもにやにや。

江神さんは呆れてましたけど結構いい感じの小説だったんじゃないかな?確かに突っ込みどころは一杯あったけど。私、分からなかったし。確かに、伏線あったし。

ずっとこの謎に挑むわけではなく結構色々なことを考えながら片手間にって感じですけどね。例えば次の元号はどうなるかとかね。この話は88年の大晦日なので。あと数日で新しい時代が来ます。推理的には対抗が正解でしたね、江神さん。

あと『ハードロック・ラバーズ・オンリー』でも触れましたけど過去を振り返る作品なので色々な事件に触れてますね。順序良く読むと一緒に振りかえれて楽しいです。

さらに最も最近書かれた作品なので時事ネタが入ってたりね。どんなネタかは読んでからのお楽しみで。

江神さんのミステリ論が聞けたりしますし、過去を振り返るアリスが色々あったながらもその日々を大切に思っていることが伺えてほっこり出来たりする作品ですね。

●蕩尽に関する一考察

「持ってますよ」「ドロシー・L・セイヤーズの『ナイン・テイラーズ』なら持ってます。そんなにお読みになりたいのでしたら、お貸ししましょうか?」

アリスにノートを借りるため偶然EMCの集まりに顔を出したマリアの一言。マリアがミステリ好きなことを知ったEMCの面々は彼女をEMCに入れようと画策する。そんな中「蕩尽」とも思える金払いの良すぎる古本屋の話題になり・・・。彼の意図とは?その答えが意味する結末は?

ついにこの短編集のラスト。マリアが仲間に入るエピソードがやってきました。この短編集の中ではかなり大きい部類に入る事件だったりします。

例によって江神さんが活躍するんですけど『桜川のオフィーリア』にも共通する名探偵の存在意義にも触れる作品だったり。これはマリアじゃなくても惹かれますわぁ。

ちなみに蕩尽というのは「財産を使い尽くすこと」です。どうしてそんなことをするのか?がメインテーマだったりします。うーん、真相を推理するのは結構難しいかも。確実には言えない感じ?想像に任せるしかないかな。ピースが足りてないから(私が見逃してるだけの可能性もあるけど)。

何はともあれ1年が過ぎました。ようやくEMCのフルメンバーが揃いましたね。

そして舞台は『孤島パズル』そしてそれが発端で巻き込まれる『双頭の悪魔』に繋がっていく・・・。

って感じですかね。やっぱり学生アリスはいいですねー。長編もいいけど短編でも。江神さんはもちろんのこと各キャラクターの掛けあいとか語り手の感じとか。

あとがきより学生アリスはあと長編1本と短編集1冊で終わるようです。早く読みたい。でも、これを読んでしまったらひとつの物語が終わってしまう。なんてジレンマ。まあ、まだ大分先の話だとは思いますけどね。

最後の物語がでるその日までアリスと同じく過去を振り返りながら待ってましょうかね。とりあえず『月光ゲーム』から読みなおしちゃおう。

はい、学生アリスシリーズ初の短編集、アリスの青春の日々の物語。是非手に取ってみてはいかがでしょうか?
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体に気をつけてがんばってほしい

有栖川有栖という人は本当に推理小説が好きなんですね。
そしてつくづく演出家だな~とも思います。
役者たちがそつなく動いて(動かして・・・かな)くれてますし。
やっぱり面白いな、はすれないな、そんなこんなで
読んでしまいますね。

『江神二郎の洞察』読みました!
やっぱり登場人物が魅力的なんですね~。
じっくり読もうと思ったけど、一気に読んでしまいましたww。

魅力的な作品を数多く生み出す有栖川さんの内面を
ひもとく解説がされているサイト、探したら見つかりました。
http://www.birthday-energy.co.jp
来年は崩れ去るかもしれないとか!?
史上最大のイベントが何なのか?。
案外これすらミステリーになっちゃうかも。

情報ありがとうございます

これは、怖いですね・・・。
いつまでもお元気で有栖川作品を生み出していって欲しいです。

まだまだ有栖川分が不足してますからねーw
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