絶叫城殺人事件

有栖川有栖が送る「夜の館の物語」

という訳で今回は有栖川先生の短編集『絶叫城殺人事件』の感想を書いていきます。うーん、このブログの出演数断トツですよね有栖川先生。ちなみにですが、まだ一杯積んであったりします。というか多分次の記事も有栖川先生です。

館といえばすぐ脳裏に浮かぶのは綾辻行人先生ですね。もちろん有栖川先生にも何かの建物内で起きる殺人っていうのはないわけではないですが、なんとなくイメージ沸かない感じです。作家アリスは作品の性質上どこぞの建物に閉じ込められて殺人に遭遇するなんて状況は滅多にないですし、学生アリスも火山やら島やら村やら城下町やら建物というよりは閉ざされた空間で事件が起きてますし。

まあ、本作もどこぞに閉じ込められるって話はひとつもないんですけどね。奇妙な館で起きた事件について捜査協力を依頼された火村とアリスが捜査するって話ですし。

あと「~殺人事件」というタイトルもほとんど使っていないイメージです。これは有栖川先生があとがきで述べていることなんですけども。で、この短編集は全て「~殺人事件」ってなってたりします。こういう短編集を作ろうと考えてたとか。

ただ・・・なんとなく解せないところもあったりします。タイトル詐欺なんじゃと思う内容の作品があったりなかったり。いや、もちろん面白いんだけども。というか短編になるとさらに切れ味が増す気がしますね。長編の読者への挑戦もいいですが綺麗に、鮮やかにまとめられる短編も魅力いっぱいです。

ではでは、作品紹介にいきましょう。作家アリスの短編なので探偵役は火村英生、ワトソン役は有栖川有栖ですね、もちろん。ほいで、例によって短編なのでひとつひとつみていくことにしますね。

●黒鳥亭殺人事件

二人の大学時代の共通の友人であり画家の天農仁が愛娘と暮らしている黒鳥亭で見つかった変死体。天農からの依頼を受けて捜査に赴いた二人は天農、そして娘との会話を通して事件の真相に迫っていく。こんな感じですかね。

実は私がこの短編集で一番好きなのがこれですね。「20の扉」そして「イソップ物語」という娘のお守を通してヒントを出し、事件の真相を明らかにしていく話です。作品の根幹にあるのが「イソップ物語」のある話で「20の扉」を使って作品に深みを出しているといった感じ。

「20の扉」を通して「無垢な、純白の、ワンピースの天使」である娘の存在を際立たせる。これが本当にいい味を出してます。さらにこの作品を素晴らしいものにしているのが「イソップ物語」です。メイントリックに関わる話もさることながら作中でアリスの考察が入る有名な話「アリとキリギリス」も上手く作品の構成要素にしてるところが素晴らしいです。さすが、有栖川有栖先生って感じです。

事件と関係のない会話をさせながら実はそれ自体がヒントになってたり、作品構成において重要な要素になってたりまさに短編の教科書みたいな作品ですね。

●壺中庵殺人事件

壺中庵という一風変わった地下室で起きた密室殺人。正方形の地下室。たった一つだけの「扉」。壺を被り吊るされた死体。自殺ではありえない不可解な状況に火村とアリスが挑むことに。こんな感じですね。

正統派密室トリックだと思われます。メイントリックは読み進めていくうちに分かりました。犯人は、正直最初の描写で分かりました。うん、だってテンプレだもん。よくある感じのお話ですね。

ただ、ありきたりなストーリーを面白く見せるのが作者の力量なんでしょうね。やっぱりそんじょそこらの作品とは一味違います。上手く奇抜な建物を使っていました。

些細な謎まで全てが伏線になっていて、もちろんきっちり回収されています。ラストシーンの不快そうに、でも淡々と自身の冷酷な想像を語る火村と取り乱した犯人のやり取りもやるせない感じがして作品にぴったりなラストだったと思います。

●月宮殿殺人事件

とある事件の捜査の帰り路、アリスが過去に見掛けた奇妙な建物が無残な姿になっているのを見かけた二人はそこで起きた事件に首を突っ込むことに。放火をした高校生。火事に巻き込まれ亡くなった男。事件の目撃者となった男の友人と高校生の親類の証言が食い違う不可解な状況。その真相は意外なところに隠されていた。こんな感じですかね。

確かに全体像は論理的に導くことは出来るのですが、ある人物の行動だけはある知識がないと解説出来ないという作品。これはちんぷんかんぷんでした。真相が分かってなるほどーって思う感じの作品かと。これを初見で解けたって読者さんは凄いと思います、うん。

男の友人でアリスとも面識がある登場人物が出てきますがこれがまたいいキャラクターだったり。なかなか人間味の溢れた作品ですね。

●雪華楼殺人事件

建設が頓挫したビル「雪華楼」に無断で住み着いていた若いカップルと浮浪者。美しい建物で起きた悲劇。被害者は殴殺され即死・・・死体から得られる情報は明らかに他殺だと考えられる状況。にも関わらず自殺としか思えない現場。事件の鍵を握っているのは記憶をなくした少女と姿を消した浮浪者だった。こんな感じですかね。

「あり得ないだろっ!!!!」

というのが初見の感想なんですが、これ、同じような事件が実際にあったらしいです。あとがきで述べられていますね。そう思うほどに本作で一番不可解といえる事件だったりします。他の事件は「なんとなーくこんなんかなぁ」と予想を立てられるんですけど(当たっているとはいってない)これはそれすら出来なかったもん。

ただ、確かに伏線はあるんよね。アンフェアかと言われれば全然そんなことはなく。色んなシュミレーションをしてあり得ないことを削っていけば真相に辿りつける部類の作品ではあります。

●紅雨荘殺人事件

映画の舞台になった紅雨荘とその名前の元になった本家の紅雨荘。ふたつの屋敷の持ち主である女性が殺される。明らかにおかしな言動をし自分に不利になるような証言をする容疑者。事件を難しくしたのは紅雨荘という建物の存在自体だった。

冒頭が一番美しい作品。最初はなんやこれって感じなんですが読み進めれば何を表現したかったのかは分かるのでご安心を。

この事件のポイントはひとつ。「なぜ自分に不利な証言をしているのか」

確かに、そう言われれば、確かに。そんな感じですかね、この作品は。もちろん、初見ではまるで分かりませんでしたけども。

作中にある映画のシナリオと本筋のストーリーが絡み合いなんとも言えない雰囲気を醸し出してます。

●絶叫城殺人事件

「NIGHT PROWLER」・・・3つ目の事件現場に残された謎のメモ。これが世間を騒がす連続通り魔殺人とホラーゲーム「絶叫城」とのつながりを暗示させる。ヴァーチャルな世界ではなくリアルの世界で「夜、うろつく者」という名の怪物と火村の戦いが始まった。こんな感じかな。

はい、作品中唯一「リアルの世界」には館が出てこない表題作。もちろんまるで出てこない訳ではなく「ヴァーチャルな世界」には「絶叫城」という建物が出てくるんですが。

テーマはずばりリアルとヴァーチャル。なんですが、安易に若者の心の闇なんて言い出さないのがさすが先生といったところ。むしろ心の闇という言葉に苦言を呈するような仕上がりになっています。確かに今の社会はこの言葉を安易に使い過ぎですね。分からないことを無理やり説明するための道具になっている。

なんて少し考えさせられる内容になってます。が、そこはもちろん有栖川有栖。当然のごとく本格ミステリです。通り魔殺人というミステリには向いてない題材を上手く調理してますね。


はい、以上6作でした。どれもこれも面白かったですね。どれも一筋縄ではいかない物語ばかり。

あとね、先生自身によるあとがきもそうですが解説が一風変わってて面白かったり。建築コンサルタントの方が書かれた解説なんですが同業者やら批評家さんとは一味違った視点から書かれた解説なのでこちらも是非是非見て欲しいところですね。

ではでは、有栖川有栖が紡ぐ6つの至高の物語、是非手に取ってみてはいかがでしょうか?


【次回予告】・・・ねくすとこなんずひーんとっ!

実は次に読む本が決まっていたりします。というか今読んでる小説を中断して、先にそちらを読みます。またまた有栖川先生の短編集です。はい、前回の駄文で触れた『江神二郎の洞察』を入手できましたー。

というわけで次回は学生アリス初の短編集についての感想を書こうと思っております。拙い文章になってしまうかもですがお付き合いいただければ幸いです。
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