キャンセルされた街の案内

今回はこのブログにしてはちょいと珍しい、日々の日常の情景を切り取ったような短編集でございます。

作者さんは吉田修一先生。『悪人』の映画化で話題になってた方ですね~。妻夫木聡主演でした。残念ながら映画も原作も観てはいませんが、友人が面白いといっていたので今後読むかもしれません。

で、本作ですよ。200ページちょいの中に10個の短編。平均20数ページ。本当にあっさりとしたものが多かったですね~。短編小説を読むというよりも詩を読んでる感覚でした。表現が詩的というよりも詩そのものといった印象を受けましたね~。

というわけで、作品紹介~。・・・と、いつもならなるんですがいかんせん短編同士につながりがある訳でもないためどう紹介すればいいか分からないです。だから今回はひとつひとつに感想を書いてみてその中であらすじも紹介という形でお茶を濁すことにしますね~。

1.日々の春

新入社員の挙動がいちいち気になる女性の話。

本作中最も分かりやすい作品だと思われます。これは短編って感じがしました。短いながらも女性の心理描写を描きつつ、伏線を置き、しっかり回収。ラストも読者に想像の余地を残すさわやかな終わり方でした。

10個の中から選ぶのであれば一番好きかもと思えるお話でしたね~。

2.零下五度

前半が韓国へ旅行に来た女性、後半が韓国人男性の視点で進む物語。二人の共通点はよく思い出せないある話がどんな作品だったかについて考えてるところ。

作者さんが伝えたい意を私が汲めていないだけかもしれないけれど、少し分かりづらかった作品。不必要な描写が邪魔をしてた印象ですね~。メインの話探し自体は好きなんですけどね~。

「わけもなく泣きだしてしまった。理由などなかった。」

登場人物に理由が分からなくても、ストーリー上は理由がないといけない気も・・・。ただこの描写は女性がこういう人物なんだという表現なので必要ではあるんですけどね、多分。ちょっと分かりにくい、というか詩的。

一番分からなかったのは不要な事実の付記。「昨夜はサムゲタンを食べた後~」のくだりとか別になくてもええ気がするのは私だけ。視点が登場人物だから仕方ないのかな?

3.台風一過

言いたいことを訊いてもらえなくて苦しんでいる家出中の少年と言いたくないことを無理やり言わされる男性の視点で進む話。

これは好印象。あらすじの通り少年と男性の対比になっているのだけれど、この構造は好きでしたね~。後半の男性パートでこの比較がだされるんだけれど、男性はたまたま目に入った少年がその比較対象になっているとは気付いていないというのがいいですね~。

もうひとりの登場人物である女性がいい味だしてるのも高印象ですね~。

4.深夜二時の男

長く付き合っていた彼と別れ、引っ越した先のアパートで出会った隣人の男との奇妙な出来事の話。

これも2部構成ですね~。過去のアパートに住んでいた私とその後彼と寄りを戻し幸せな家庭を築いた私という2視点でした。

これもいい感じでしたね。なんで通報しないの?とか大家に伝えないの?とか疑問は感じなくはないですが綺麗にまとまっている作品だと思います。結構問題行動にも関わらず終始一貫してあっさり描かれているのが好印象。ラストも「あくまで思い出話、私には印象に残る出来事だったけど私しか知らないし今後考えることもない」みたいな感じで終わります。あ、もちろんですがこうやってストレートに表現されている訳ではないですよ?

5.乳歯

子持ちの女性と付き合う男性が子守をする。ひょんなことからその子が映画に出演することになり・・・という話。

心理描写としては面白いんし、男が少しだけ「お父さん」としてその気になるというストーリーも素晴らしいです。が、分かりづらい。というか男の友達付き合いはいるのだろうかとは感じました。これなくてもこのストーリーには影響なさそうな感じも・・・。でも男の置かれた立場を表現するには必要なのかな?どうなんだろう?

6.奴ら

専門学校に通う学生が痴漢に遭うという話。この学生も痴漢も男というのが少し変わってるところかな。

学生の彼女はいいね。こういう子好きやわ~。起こったことを客観的に観ると滑稽に映るだろうことが学生の心理描写ひとつでここまで面白くなるんか~と思わされましたね~。

7.大阪ほのか

大阪にいる友人を訪ね、飲みに出かけて・・・という話。

偶然にしても出来すぎだろと突っ込みたくなりますがそれは小説だから仕方ないですね。基本的には再会したふたりの会話で進む話ですがメインテーマはそれぞれ(ふたりだけではないです)の女性観ですね~。タイトルとラストが好きです。

8.24 Pieces

親友の彼女に手を出してしまった男性がチョコの紙包みに記していく物語。

短編というよりも詩ですねこれは。小さい紙包みに一言二言書いていくという設定なので時系列もばらばらですし。珍しい趣向ですし、この話には合っている気がします。最初何いってるん?ってなってたんですが最後までいって話を理解。読みこむと(というほどの文章量でもないんですが)面白く感じる話。

9.灯台

連れと歩く話。

短いですがこれをあらすじにしときます。実際読んでみて、読み進めていくうちになるほどと思った方が面白い作品ですしね~。一番小説っぽい作品。内容は現実的ではないけれども。実際自分がこういう境遇になったらどうするんだろう?

10.キャンセルされた街の案内

自分のところへ押しかけてきた兄。直前の恋愛、そして兄との再会を通じて過去を振り返る男の話。

この男が書いている小説と本文が入り混じるので少し読みづらい作品。ただ、小説は一部を除いて実際にあったことだけを書いているという設定なのであんまりつなぎ目を気にしなくてもいいかも。

表題作だけあり最も長い作品。男がいろんなところに考えを向けるので理解するのが難しいかも。私は大分困惑しました。これ、どこに着地したいんだろうと。ただ、この作品に関しては大体の伏線を綺麗に回収してますね~。短い文章ですがしっかりと。

・・・こんな感じかなあ。本作全体を通してみると、しっかりとした作品構造を決めて書かれているというよりはその登場人物が観てきた風景をそのまま切り取っているといった感じ。短編にはとても向いている趣向ですね。

素敵な表現と何か考えさせられる登場人物を取り巻くストーリー、是非手に取ってみてください。
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